文化デリックのPOP寄席

第0回 2005年2月 ゲスト: 堀雅人(放送作家/ライター)

アーサー・ラッセル『WORLD OF ECHO』 CD:アーサー・ラッセル『WORLD OF ECHO』
(Audika Records)


アーサー・ラッセル(1951〜92)は、チェロ奏者、作曲家、プロデューサーで、ジョン・ケージら現代音楽家とラリー・レヴァンらガラージのDJを繋ぐ男である。『コーリング・アウト・オブ・コンテクスト』所収のムードマンのライナーによれば、「彼の残した傑作のほとんどは、ディスコ専用の、12インチ・シングルという呪われたフォーマットで発売されてきたため」、彼の偉業が見えにくかったとある。21世紀に入ってから、英SOUL JAZZ RECORDSをはじめいくつかのレーベルが、ダンス・ミュージックの音源から膨大な未発表音源までを発掘し、リイシュー盤やコンピレーション盤をリリース。今の再評価に繋がっている。

川勝:

実は僕、アーサー・ラッセルというミュージシャンの存在自体を知らなかったんです。『コーリング・アウト・オブ・コンテクスト』所収のデイヴィッド・トゥープのライナーによれば、彼はもともとチェロの演奏者だったのですが、1960年代後半にはサンフランシスコでアレン・ギンズバーグと出会ってビートのパフォーマンスへ参加するわ、70年代半ばにはニューヨークでジョン・ケージやローリー・アンダーソンといった前衛音楽のミュージシャンたちがポップ・ミュージックへメタモルフォーゼする現場に手を貸すわ、80年前後からガラージハウスのDJラリー・レヴァンとの交流しディスコ・ミュージックを生み出すわ、と華麗すぎる経歴の持ち主です。92年にはエイズで亡くなってしまうのですが。


下井草:

ラリー・レヴァンも死因はエイズでしたね。


川勝:

つまり、前衛音楽とポップ・ミュージックの垣根が壊れる時期、ニュー・ウェイヴからディスコ・ミュージックへの流れ、そしてガラージハウスの曙と、3つの重要な現場に居合わせている。


下井草:

両方の流れの渦中にいたわけですね。


川勝:

この『WORLD OF ECHO』は86年に出たオリジナル・アルバムで、遺作。音楽やアートが変化する時代の真っただ中にいながら、彼は、今の宅録みたいな感じで、自分や友だちに向けた個人的な音楽を作っている。前衛音楽とディスコの両方とコネクトしているので、音に浮遊感がある。後の言葉で言えば、音響系とも言える。ヴォーカル自体は邪気がなくて、ロバート・ワイアットにも通ずる。そういう意味では、真の意味でのヒーリング・ミュージックなのかもしれない。


下井草:

確かに。


川勝:

このアルバムは、たまたまレコード屋でかかっているのを耳にして、すごくいい! と感じて買ったんだけど。うれしい出会い方でしたね。てっきり新譜だと思ったのです。


下井草:

彼は、チェリストとしては普通にアカデミックな教育を受けてきたんですか?


川勝:

そのようです。でも、楽器そのものを改造したり、録音方法やエフェクターの使い方でチェロの可能性を拡大している。ディスコ・ミュージック以外の、商業性がないということで、長年お蔵になっていた音源も、ようやく陽の目を見てきた。


下井草:

未発表音源集も出ましたよね。


川勝:

それが『CALLING OUT OF CONTEXT』です。ディスコ・ミュージックの音源を集めた『THE WORLD OF ARTHUR RUSSELL』と合わせて、オススメです。