DVD:『HAACK ハーク―ザ・キング・オブ・テクノ―』
(ナウオンメディア)
ブルース・ハーク(1931〜88)という謎多きユニークな電子音楽家の生涯を、彼の表現に深く関わった人たちや、影響を受けた現代のアーティストたちの証言、出演したテレビ番組の映像、そして彼の音楽のイメージを視覚化したアニメーションなどで構成したドキュメンタリー映画のDVD化。フィリップ・アナグノス監督作品。
次は、ブルース・ハークというミュージシャンを取り上げたドキュメンタリー映画のDVDです。内容的には、2001年に公開された『テルミン』、近々公開(2月19日より)される『MOOG』といったタイプの音楽ドキュメンタリーにつながるものだと考えていただくとわかりやすいと思います。ブルース・ハークは、ミュージシャンといっても電子音楽畑で、ディメンション5というレーベルで子供向けの音楽を作っていた人です。曲の感じでいえばペリー&キングスレーあたりを想像してもらうといいかもしれない。
あえて日本で置き換えるなら、山下毅雄みたいな感じですかね。
ハークは『ミスター・ロジャーズ・ネイバーフッド』という子供番組にも出演して、ピアノを弾いて子供達に色々な体操をさせるんです。そこで共演している体操の先生が、エスター・ネルソンという女の人なんですが、竹腰美代子(50年代半ばに活躍した元祖・美容体操の先生)のように子供好きする色気をムンムン出しています(笑)。
竹腰美代子って、クレージーキャッツの安田伸夫人でしょ。その形容はナウなヤングには全然分からないよ(笑)。
ハークにはマッド・サイエンティストっぽいイメージもあって、自分でシンセサイザーなどの楽器も作っていました。万国びっくりショーみたいな番組に出演した時の映像が面白かったですね。ハークの相方がピアノを弾いているんですが、彼が座っている椅子のお尻にアルミ箔が貼ってある。人間の身体を電極にして電気を流しているので、後ろからピアニストのおでこに触れると、音が出るんですよ。つまりテルミンみたいな仕掛けですね。その“テルマトロン”という電子楽器でピアノと一緒に曲を奏でる(笑)。
ローリー・アンダーソンみたいなパフォーマンスだ。
そうかもしれない。
彼はテルミン博士みたいに劇的、かつ、悲劇的な人生を送ることになるんですか?
この作品では「報われなかった人生」という視点から描かれていますね。実際、ドラッグにおぼれてますし、「ハーキュラ」という曲の歌詞では音楽業界への不満をそのまま歌っています。「音楽業界に関して俺が聞かなきゃならなかった嘘は、俺をこの業界からやめさせたくなる。業界が長くになるにつれ、そして俺がいろんなことを知るにつれ、この世界というのはクソまみれだってことがわかったんだ」みたいな感じで(笑)。これを、ボイスチェンジのエフェクトを通して歌う。
テクノ恨み節だね(笑)。
ベックが「こんな歌詞見たことない」というコメントを寄せています(笑)。最晩年83年になると、ヒップホップのプロデューサー、ラッセル・シモンズと「パーティー・マシーン」という曲を作るんですが、この曲はエンディングに収められてます。
ヒップホップともつながってるんだ!
それと面白かったのが、ハークの未発表曲をクリス・カチューリスというかつての仲間が歌っている映像。地下鉄のホームで、70歳手前と思われる老人カチューリスが、白いランニングに――あえてタンクトップという言葉を避けましたが――、ヘッドホンをつけて歌っている姿が撮影されているんですが、その様がデヴィド・バーンに似てる。まるで根本敬が撮った『ストップ・メイキング・センス』みたいな感じなんですよ。すごくモンド感を感じましたね。
『MOOG』に関しては、主人公がきちんと成功していて経済的にも恵まれている分、映画としては『テルミン』などと比べると、面白みがないという部分もあったよね。もちろん、天才的なことをやった以上報われたほうがいいんですけれど。『HAACK』はどうでしたか?
観る前はもうちょっとヒッピー感のあるものかと思っていたんですが、『HAACK』も意外とスクエアでした。短髪だし、スーツ着てるし。まあ、ドラッグはやってるんだけどさ(笑)。アウトローだとしてもヘイト・アシュベリー以前だし。
まあ、監督が持っている人物感も作品に反映されるからね。
『MOOG』に近いということでいえば、現在の最前線のミュージシャンによってその音楽を発見されて、賞賛を受けているところですね。マニー・マークやマウス・オン・マーズ、DJミーDJユーといったハークを賞賛している面子は、『MOOG』とかなりかぶってます。
字幕監修と解説は、安田謙一さんなんですね。
昨年ハークのアルバム5枚がCDで復刻されてるんですが、日本盤ライナーを執筆したのは、安田さんと小柳帝さん、常盤響さん。まあ、そういう音楽ということです(笑)。