文化デリックのPOP寄席

第0回 2005年2月 ゲスト: 堀雅人(放送作家/ライター)

タイガー&ドラゴン TVドラマ:『タイガー&ドラゴン 三枚起請の回』
/(TBS系1月9日放送)→DVD(ポニーキャニオン3月9日発売)

狂剣病患者(クレイジーケンバンドファン)の宮藤官九郎が、CKBの名曲「タイガー&ドラゴン」にインスパイアを受けて描いたドラマ。『池袋ウエストゲートパーク』で真島マコト役を演じた長瀬智也、『木更津キャッツアイ』でぶっさん役を演じた岡田准一の2人が顔を揃えた、クドカン好きにはたまらない配役。天涯孤独の横須賀生まれのヤクザ虎児(長瀬智也)と、裏原宿で“ドラゴンソーダ”というショップを営むデザイナー竜二(岡田准一)が落語界を通して出会い、噺さながらの事件に巻き込まれていく……。

川勝:

『タイガー&ドラゴン』。今回の放送は新春特番という謳い文句でしたが、ここだけの話ですけれど、4月15日から同じ設定で連続ドラマになることが決定しています(2月末情報解禁となった)。宮藤さんは狂剣病患者だということもあり、テーマ曲にもなったCKBの「タイガー&ドラゴン」をベースにしている。


下井草:

「タイガー&ドラゴン」の歌詞の要素を三題噺にした趣がありますよね。もともとクレイジーケンバンドの曲は、それぞれが超短編小説になっているといってもいいぐらいで、歌詞のなかで時制が変わることもあるし、小説的なふくらみがある。


川勝:

「タイガー&ドラゴン」では、横須賀の三笠公園で男がダサいスカジャンを着て待っていて、「俺の話を聞け!」と言うんだけど、最後までそれが何の話か明らかにはされない。「貸した金の事などどうでもいいから」というフレーズから、金を貸しているということはわかる。それとスカジャンの絵柄のことを「背中でにらみあう虎と龍じゃないが俺の中で俺と俺とが闘う」と歌っている部分があるけど、これは虎と竜の刺青を入れると喧嘩しちゃうというので、間に観音様を入れるところからきている。


下井草:

これらの歌詞がドラマの設定に活かされているというわけですね。


川勝:

あらすじを説明するてえと――。


下井草:

お前さん、落語口調にならなくても――。


川勝:

話が面白くないというコンプレックスを持っている虎児が、組からの借金を抱えた林屋どん兵衛(西田敏行)に“追い込み”をかけている最中に、高座で「三枚起請」という落語を聞いて、「オレを粋でおつな男にしてくれ」って土下座して弟子入りを志願する。虎児は昼は修行、夜は取り立てなどをしているうちに、(実はどん兵衛の息子である)竜ニに出会う。竜ニはデザインの才能はないんだけど、現実の体験を面白おかしく語るという才能は持ち合わせている。そんな彼をナビゲーターに、伊東美咲が演じるキャバクラ嬢や彼女の被害に会った男たちと出会っていく――というストーリーですね。


下井草:

あの歌詞を落語の世界に持っていくというのは意外でしたね。


川勝:

だけど、ちゃんと落語を知っている人も納得できる内容になっていたんじゃないかな。ドラマの中でも、落語好きのそば屋の辰夫(尾美としのり)が説明しますが、「三枚起請」は元々は上方落語で、それが東京に入ってきて古今亭志ん生〜志ん朝が得意とするようになったという、すごく難しい演目。桂米朝も「三枚起請」の枕で志ん生の「三枚起請」に触れています。一言でいうと、花魁が「カタギになったら結婚する」と約束した証文(起請)をなじみの客3人に書いていたのがバレて、男たちが力合わせて花魁をとっちめようとする噺。その古い落語の噺をどうやって宮藤さんがアップトゥデイトにしたかというと、花魁をキャバ嬢、起請を誓いのタトゥー、という設定に変えて、女に被害にあわされた男の数を3人から5人に変えて、「五枚起請」にアレンジしていると。つまり、新作落語まではいかない寸止めという形で、古典落語のリミックスをやったという感じですね。


下井草:

立川藤志楼こと高田文夫先生も高評価でした。


川勝:

バウバウ! キャスティングも技あり。落語家役の西田敏行の演技は、もしかしたら『釣りバカ日誌』シリーズも観とかなきゃいけないのかとあせるほど上手かった。笑福亭鶴瓶師匠をヤクザ役にして、実際の職業と真逆にしているのもいい。あとは銀粉蝶みたいなアングラな役者さんが林屋亭のおかみさん役で出演していたり。


下井草:

あれは、林家三平一家でいえば、海老名香葉子の役回りというわけですね。


川勝:

そうそう。それと、テレビで食べていくしかない落語家の姿をアフロヘアーで演じていた林屋亭どん太役の阿部サダヲの出方も良かったし。実際の人気落語家、春風亭昇太を林屋亭どん吉として、うるさい落語ファンへの“保険”も兼ねて起用しているのも座布団十枚! ただ、連ドラになって毎回このスタイルが続くとしたら、50分弱で落語を1ネタおろすのは大変だし、どういう風に作っていくのかが気になって春日三球よろしく夜も眠れなくなっちゃう(笑)。それと今回は、あくまで虎児主体だったから、本来、落語の才能があるのにデザイナーをしている竜二がどうやって自己実現をしていくのか、そっちのほうが気になりますね。


下井草:

もう一度、落語家に戻るんでしょうかね?


川勝:

裏原宿のショップとはいえ、デザインも超ダサくて、すぐに潰れそうな昔の竹下通りのタレントショップみたいな感じの店にしているし、その伏線かも。今後は、落語の噺を軸にした擬似家族というか、拡大家族をテーマにしたドラマになっていくのかな? 冒頭の前フリで春風亭昇太がいった「虎は現実の生きもので竜は架空の生きものだから出会うはずがない」という台詞を、さっき話した刺青の話に置き換えると、虎(虎児)と竜(竜二)が背中でにらみあっている間に、観音様ではなく落語が入るといえるかもしれない。天涯孤独の虎児と、本当の親や兄弟だけじゃなく父親の弟子たちという擬似家族にも囲まれた竜二……家族観が違う2人の間をつなぐのが落語になるのか? いずれにせよ、このドラマを観せられたら、しりあがり寿さん原作、くど監こと宮藤官九郎初監督の映画『真夜中の弥次さん喜多さん』が非常に楽しみになってくる。


下井草:

はい。あとは連ドラでもちゃんとCKBの「タイガー&ドラゴン」をテーマ曲にしてくれれば言うことなしでしょう(笑)。