CD:漢『導 〜みちしるべ〜』(Libra Records)
新宿を拠点に活動するヒップホップ・クルー、MSCのメインラッパーが漢。漢は、毎年夏に代々木公園で開催されるイベント「B-BOY PARK」のフリースタイルバトルで優勝した実力の持ち主でもある。このファースト・ソロアルバムには、MSCの仲間の他、ブッダブランドのDEV-LARGEなどもゲスト参加。このジャケットは、NASへのリスペクトのなせる業か。
今、うちのCDの整理をしてるとさ、明らかに80年代後半から90年代のはじめまでは、自分が大量にヒップホップのCDを買っていたことがわかる。でも、最近はあまり買っていないんですよ。この1年でグラッときたのは、N.E.R.D.やハンサム・ボーイ・モデリング・スクールぐらいかな。僕はロック世代なんで、さっきのECDみたいに、サンプリング・スポーツならではの耳の喜びがないと駄目なんです。もしくは、ロックをはじめミクスチャー感があるかどうか。クラフトワークをダンス・ミュージックとして捉えなおしたアフリカ・バンバータに始まり、ランDMCやビースティー・ボーイズといった、リック・ルービン・プロデュースによるロック大ネタづかい系でヒップホップ体験を経て、ハマっていったから。
ザックリ言えば、川勝さんが言われたようなサンプリングスポーツ的なものは少なくて、びっくりするくらい安直なシンセのフレーズが繰り返されるのが多い(笑)。大ネタを45回転に変えてサンプリングしているカニエ・ウエストとか、面白いものもあるんですけど。
カニエ・ウェスト、僕も好きですよ。ちなみに、僕は蟹江敬三のことをカニエ・イーストと呼んでます。
(笑)。でもそういうベタで安直なシンセのフレーズをリフレインするような曲って、自分が中学生くらいの頃にかっこいいと思っていた音楽の価値観から大分遠いものになってて、それがめちゃくちゃ面白い(笑)。遠慮のなさとか品のなさとか。
傍観者的に見る分には物珍しくて面白いよね。ヒップホップが大衆化する過程ではこうなっていくだろうという予感も確かにあったし。
宮藤官九郎さんは好きなロックをすごくうまく自分の作品に落とし込んでる印象がありますけど、僕の場合はヒップホップかなあと思ってるところはありますね。L.L.COOL J太郎とか(笑)。わりと気づくとそういうことをしている。
そういう最初の世代だよね。
そんなわけで、今日、CDで用意したのはメインストリームからちょっと外れている、川勝さん的にも面白がってもらえるんじゃないかというヤツです。まずは、日本語ラップのアンダーグラウンドシーンをレペゼンするグループ「MSC」のリーダー、漢のソロアルバム。僕は世代的に、スチャダラパーが世に出てきた頃のマイクロフォン・ペイジャーみたいな匂いを感じちゃうんですけど、それよりもっと荒んだことをラップしてます。CDの内容自体もいいんですけど、初回の5000枚限定でDVDがついてて、それに収録されているフリースタイルの映像が面白い。それを今から観てもらおうかなあと。今、日本語ラップのフリースタイルも相当レベルの高いことをやる人が出てきてるんですよ。
そのMSCっていうグループ、出身はどこなんですか?
新宿で生まれ育ったというのがひとつのアイデンティティになっていて、新宿とか新大久保の状況なんかをラップしてますね。で、この映像も舞台は歌舞伎町の路上です。
うわ、ほんとにドキュメントなんだ。
漢は「B-BOY PARK」の優勝者で顔も売れているし、根城の歌舞伎町を歩いていたらフリースタイルバトルを挑まれた、みたいな感じ? 知らないけど(笑)。挑んだ相手の子は、すでに出来上がってるライムをキックするので一生懸命な感じですね(笑)。
漢のほうが何枚も上手って感じですね。
フリースタイルでうまく韻を踏まれると、芸人さんが巧いこと言ったときみたいな、独特の高揚感がありますよね。
放送作家ならではの巧いたとえだ(笑)。 バトルのとき、脇の人はヒューマン・ビート・ボックスになるんですか?
できるヤツは自然にやりだすんじゃないですか? やったことないんでわかんないですけど(笑)。ちなみにフリースタイルのときにできる輪を「サイファー」と言います。この先、アメリカのフリースタイル事情を紹介する映画(『FREESTYLE』)も公開になりますし、こういうバトルのイベントが都内でもいろいろ行われてて、1対1じゃなくて2対2とか3対3とかでもやってる。ヒューマン・ビート・ボクサーもAFRA効果でたくさん出てきているみたいで、盛り上がってんなーって感じですね。
スチャダラ以降の説教ラップとかkj系はピンとこないんだけど、漢のフリースタイルは面白い。
アルバム自体は、少しトーンは違ってダークなんですが、今のシーンを代表する顔役の1人ですね。