文化デリックのPOP寄席

第0回 2005年2月 ゲスト: 堀雅人(放送作家/ライター)

性交と恋愛にまつわるいくつかの物語 書籍:高橋源一郎『性交と恋愛にまつわるいくつかの物語』
(朝日新聞社)


性愛の喜びと試練に満ちた、「暗黒恋愛」小説を全5編収録。お子様ランチのようなセックスから深淵をのぞくかのごとき性経験まで、決してきれいごとに終わることのない現代のセックスと恋愛を描いている。寓話的でありながらリアリティに富む筆致はこの作家の本領を発揮していると言えよう。

川勝:

ここに収められた中でも特によかったのは、「木村さくやのひそかな野望と松島ななよのひそかな願望」という作品です。


下井草:

あからさまにモデル小説ってことですね(笑)。


川勝:

ベタなネーミングだけですが。木村さくやはブ男で、どうすればモテるのかを常に考えていて、ジャニーズ事務所に連絡を入れたり、モテようとするための努力は惜しまない。松島ななよは、コンビニのレジ打ちのアルバイトをしていて、「JJ」をファッションの教科書にしている女の子で、本にはブスと書かれています。でも「JJ」の読者モデルに対する審美眼は厳しい。そんな2人の日常が交互に描かれているわけですが、最終的にそれぞれが、バクシーシ山下的な企画物AVの男優、女優として、出会うという話です。


下井草:

バクシーシ山下というのは、ドキュメント的手法というか根本敬的手法を駆使する有名なAV監督ですね。


川勝:

「木村さくやのひそかな野望と松島ななよのひそかな願望」は、バクシーシ山下のAVなどに触発されて書いたと思われる『あ・だ・る・と』という高橋さんの作品からの流れにあります。でも、特殊な世界を描くわけじゃなくて、コンビニとかフリーターといった日常を丹念に追いかけていった結果、AVに到達するということで、高橋源一郎の現役感を感じる小説です。木村さくやは、「JJ」でオナニーをしていて、ななよは「JJ」を愛読している。


下井草:

いわゆる高度消費社会の悲しみってものを感じますね。


川勝:

だけど、どちらもそこに載っているものは手に入れられないというように、「JJ」が合わせ鏡の役割を果たす。そんな妄想戦士同士が安い日常を過ごしながら、AVの現場でチャンス・ミーティング(笑)する。今月は性欲をテーマにした書籍が2冊並びましたが、みうらさんのは自分の説教癖の帰結としてある種の仏教的境地に達しているのに対して、高橋さんの場合は全然枯れていない。かつて漫画家の岡崎京子さんが言った「平坦な戦場」から、さらに「だるい戦場」の話になっているのに唸りました。